不動産決済トラブル1-当事者の突然の欠席

司法書士には本人確認が義務付けられています。特に不動産売買については「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(通称:ゲートキーパー法)にも司法書士による本人確認義務が定められています。決済当日に欠席することが事前にわかっている場合は、事前の面談、電話、本人限定受取郵便での書類のやりとり等、何らかの方法で本人確認をさせていただきます(どのような方法で本人確認をすべきかはケースバイケースで判断します。)。

決済当日にいきなり欠席されてしまうと本人確認ができません。司法書士は本人確認をせずに登記申請することはできません。売主・買主がそれぞれ1人ずつの取引ならば突然欠席するということはないかもしれませんが、共有で複数人いる場合、そのうちの一部の人が欠席することがあります。

実際にあった事例で、夫婦共有名義でのマイホームの購入で、夫婦ともに出席の予定だったのが、当日お子様が熱を出して急遽奥様が欠席されたことがありました。決済にはタイムリミットがあります。司法書士が本人確認等の手続きを終えた後で銀行は融資の実行に着手しますが、銀行の窓口は午後3時で閉まりますし、融資をする銀行から他の銀行(例えば売主の銀行口座)へ送金する場合はそれにかかる時間も考慮しなければなりません。ご主人は「妻の実印も持ってきたから問題ないだろう」という態度ですが、そういうわけにはいきません。何とか奥様と連絡を取らせていただけないかとお願いすると「手続きのことばかり気にして、子どもの容体を聞くような気遣いはできないのか!」と怒り出しました。

後で聞いた話だとお子様は軽度の障がいをお持ちとのことで色々大変な思いをされているのかもしれませんが、手続きを軽視することはできません。司法書士は不動産という価値の大きな財産の取引を安全に行い、国民の財産の保護に資する使命を負っており、そのための手続きなのです。司法書士だけではありません。売主、仲介業者、融資をする銀行、誰一人として遊びで集まったわけではありません。そういった関係者達に配慮することなく自分の事情にだけ配慮して欲しいというのは、我儘ではないでしょうか。

結局その件は電話で本人確認できたので良しとしましたが、本人確認ができない場合は登記申請ができないのでその日の決済は中止せざるを得ません。