職務上請求で戸籍を自由に取得できるわけではない
戸籍や住民票は個人情報なので、取得できるのは本人や親族など一定の人に限られています。しかし、司法書士には職務上請求というものがあり、業務に必要な範囲で職権取得することができます。あくまで業務に必要な最小の範囲に限定されるので、何でもかんでも自由に取得できるわけではありません。相続登記の依頼を受けたのであれば、その登記申請に必要な分だけ取得することができます。
例えば、ある不動産を特定の相続人に譲る旨の遺言がある場合、相続登記に必要なのは被相続人(遺言者)と不動産を相続する相続人の相続関係を証明できる戸籍謄本等です。その他の(不動産を相続しない)相続人の戸籍は必要ありませんし、職務上請求で取得することはできません。
ところが、相続税がかかるかどうか調べるためには相続人全員を特定する必要があります。相続税の基礎控除額が法定相続人の数によって決まるからです。なので、遺言がある場合でも相続人全員の戸籍を収集して欲しいと依頼されることがあります。この場合は戸籍取得の委任状を別途もらって取得することになります。
役所に取得請求する際、委任状の他に、委任者が相続人であること(つまり、被相続人の相続関係を調査する正当な権限があること)を証明する戸籍謄本のコピーを添付する必要があります。また、被相続人に子がいなくて兄弟姉妹が相続人になる場合、兄弟姉妹の戸籍を取得するには、子がおらず親が既に死亡していることを証する戸籍一式のコピーも添付する必要があります。これが膨大な量になることがよくあります。仮に職権で取得できるならば職務上請求書1枚で済むので、それに比べると結構大変です。
役所の窓口で委任状を出して戸籍を請求すると、「司法書士なのにどうして職務上請求を使わないんですか?」と聞かれることがあります。無制限に使えるわけではないということを知らないのです。ですから、もし業務範囲を超える分の戸籍を職務上請求で取ろうと思えば取れてしまいます。この辺りは専門家としての職業倫理の問題です。与えられた権限を乱用してはならないのは当然のことですが、残念ながら実際に職務上請求の不正使用で懲戒処分になる司法書士がたまにいます。