遺留分減殺請求訴訟の注意点
調停がうまく整わず、遺留分減殺請求の訴訟をすることになった際の注意点です。
管轄は家庭裁判所ではなく地方裁判所(又は簡易裁判所)
遺留分減殺請求は調停前置主義の為いきなり訴訟を起こすことはできず、まずは家庭裁判所へ調停を申し立てる必要があります。通常は調停が整わなければそのまま審判の手続きに移行するのですが、遺留分減殺については別途「相続開始時の被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所」に訴えを提起する必要があります。相手方の住所地、不動産の所在地(遺留分減殺の対象が不動産の場合)、あるいは双方で合意した地方裁判所(又は簡易裁判所)でも提起可能ですが、いずれにせよ調停の管轄裁判所(相手方の住所地の家庭裁判所)とは別の裁判所に改めて提起する必要があるので注意が必要です。
遺言無効を主張するなら「遺言無効確認の訴え」
遺留分減殺請求は、前提として「遺言が有効である」ことを認めた上での要求です。遺言の有効性を争うならば遺留分減殺請求ではなく遺言無効確認の訴えを起こす必要があります。この訴えの予備的請求として遺留分減殺を主張することは可能です。なお、遺言無効確認の訴えも調停前置主義が当てはまるので、まずは調停を試みなければなりません。
価額弁償は原告側から要求することはできない
遺産が不動産の場合、遺留分減殺請求を受けた側は、不動産ではなくお金を支払うことで解決を図ることができます。
<民法第1041条1項>
受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
あくまで選択権は遺留分減殺請求を受けた側にあるので、遺留分減殺請求をする側からお金で払え(価額弁償といいます)と要求することはできません。例えば遺産が不動産のみで遺留分が4分の1の場合、不動産の持分4分の1を移転するよう請求できるだけです。なお、相手方が価額弁償の抗弁を出してきたタイミングで訴えの変更をして予備的請求として「価額弁償としていくら支払え」という請求を追加することができますし、最初から価額弁償の抗弁が出されることを見越して予備的請求として訴状に記載しておくこともできます。
なお、訴えの変更をする場合、予備的請求として追加するのではなく、不動産の持分請求からお金の請求に変えてしまうこともできます。ただし、こうなるともはや不動産持分を請求できなくなるので、相手方に弁償金を支払う資力がない場合のリスクを負うことになります。予備的請求として元の不動産持分の請求も生かしておけば、裁判所は「金〇万円を支払わなかったときは、不動産の持分4分の1について、平成〇年〇月〇日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ」という判決を書いてくれます。
共有物分割訴訟が別途必要となる可能性もある
前述の通り、原告側から価額弁償を求めることはできないので、遺留分減殺請求訴訟の結果、相手方と不動産を共有することになる可能性があります。この場合、相手方から金銭をもらう代わりに不動産持分を手放すとか、不動産を売却してそのお金を持分割合に応じて分けるなどして、共有の解消(共有物分割)を図ることになります。訴訟によらなくても、話し合いや調停によることも可能です。なお、共有物分割については調停前置主義はないのでいきなり訴訟を起こすこともできます。
遺留分減殺請求権は形成権といい、主張するだけで当然に権利が手に入ります。遺留分減殺請求訴訟は遺留分減殺請求権という権利をめぐる争いではなく、遺留分請求権行使の結果手に入った財産を具体的に要求する争いです。なので、遺留分減殺請求をしたことにより当然に不動産は共有状態になったものとして、最初から共有物分割訴訟を提起することも可能です。論点が多く複雑になってしまうかもしれませんが。。