遺言執行者でないと預金解約できない?
遺言書の中で遺言執行者が指定されている場合、相続財産である預貯金の解約手続きを行うことができるのは遺言執行者でしょうか?それもとも預貯金を相続する人(あるいはその相続人から委任された人)でしょうか?
遺言で「預金はAに相続させる」とあれば、相続開始と同時に預金はAのものになります。そこに遺言執行の余地はありません。どういう事かと言うと、遺言執行者が何かする必要はなく、相続開始の瞬間に自動的にAのものになるということです(これは平成3年4月19日の最高裁判例です。)。Aの預金なのだからA(あるいはAから委任された人)が解約手続きをできるのは当然です。ただし、実務上は遺言執行者からの解約手続きも認められています。
ところが、某信用金庫に「遺言執行者が指定されている以上、その者からの解約手続きしか受け付けない」と言われたことがあります。何度も説得を試みましたが「うちの顧問弁護士もそう言っている」との回答でした。ずいぶん勉強不足な弁護士だと思いましたが、それがうちのルールだと言われてしまうとそれに従うか、あるいは訴訟するしかありません。訴訟は費用も時間もかかってしまうので、本当に最後の手段です。
遺言書には行政書士が遺言執行者として指定されており、その行政書士をネットで検索すると電話番号が出てきたので架けてみると奥様が出て「主人は6年前に亡くなりました」とのことでした。遺言執行者になった時点ですでに70代後半だったのです。迷惑な話です。
信用金庫にその旨を伝えると、死亡を証する戸籍を出せとのことでした。これも無茶苦茶な要求です。戸籍なんてモロ個人情報です。勝手に取得できるわけがありません。利害関係があれば取得できますが、今回の件は本来相続人から解約手続きができるはずで信用金庫が勝手なルールで遺言執行者の戸籍を要求しているに過ぎず、正当な理由にはなりません。結局、再び奥様に電話してお願いすると協力してくれたので、その件は事なきを得ました。
なお、本件ではその信用金庫の他に2つの金融機関に預金があったのですが、その2つは問題なく相続人の代理人からの手続きに応じてくれました。相続手続きに関しては金融機関ごとに独自のルールがあるのでやりづらい面があります。最近の印象ではメガバンクはあまりおかしなことは言って来なくなりましたが、地銀や信金はまだ奇妙な独自ルールで運用している所もあり、対応に苦慮することがあります。