不動産決済トラブル4-売主の住所が変わっている

不動産を売却する前提として、現在の所有者(売主)の住所が登記上の住所と異なっているときは住所変更登記をする必要があります。売買に限らず、贈与による所有権移転や抵当権の抹消など、何らかの登記をする際は基本的に登記上の住所が最新になっていなければできません。

※司法書士は住所・氏名の変更登記の事を略して名変といいます。一般の方は名義変更というと売買等による所有権移転登記のことだと思うので、話の中でうっかり使ってしまうと噛み合わないことがあります。

住所変更を見落として登記申請を出してしまうと取り下げて出し直すことになります。必要な登記申請が1件丸々不足しているということなので、補正で対応できるレベルを超えた瑕疵とみなされてしまうのです。補正と取り下げは全く異なります。補正は最初に申請した日付で登記が入りますが、取り下げは出し直した日付で登記が入ることになります。つまり、売買した日(決済日)よりも後になってしまうということです。もしこの間に別の人が登記してしまうと買主は所有権を得ることができません。実際にそのようなことが起こることはほぼないでしょうが、可能性としてあり得るということが問題でして、決済日で登記が入らないということは司法書士にとって信用問題なのです。

司法書士試験では登記申請書を書かせる記述式問題が出題されるのですが、住所変更登記を見落とすと他がどんなに完璧でも0点でした(現在はその鬼のような採点基準は緩和されたらしいですが)。それくらい致命的な問題なのです。

なので、司法書士は決済の準備にあたり、売主の住所には非常にナーバスになります。住所の変更がないか尋ねるのはもちろん、可能な限り住民票を事前にFAXしてもらう等して確認します。正直、売主や仲介の「住所変更ありません」という言葉をあまり信用しません。自分の登記上の住所がどうなっているのか把握している人なんてほとんどいないでしょう。

事前に確認していても、決済日の直前に住民票を移してしまう人がいます。決済の場で預かった印鑑証明書の住所が登記簿上の住所と違うことに気づいて尋ねると「ああ、昨日役所に行って住所移してきたんですよ。まずかったですか?」まずかったです。こういった場合は急遽住所変更登記も行うことになります。その分、費用も当初の見積より高くなるのでその点も了承いただく必要があります。

1回しか住所移転していないならば、住民票を取得すれば1つ前の住所が記載されているのでそれが証明書類になります。問題は複数回移転しているときです。例えば、売主がその不動産を買った時に当時住んでいた住所(A)で登記し、その後その不動産の所在地に住所(B)を移し、そこから新たな引越し先に更に住所(C)を移した後で売却するような場合です。戸籍の附票であれば基本的に住所の変遷が全て記載されているのですが、本籍地でないと取得できないため、遠方の場合は当日中に準備することが不可能です。5年間であれば古い住民票(除票)が保管されているので、住所Bを管轄する役所でそれを取得すればそこに1つ前の住所Aも記載されており、最新の住民票(住所C)と併せて住所移転の証明書類になります。

既に5年が経過していて廃棄されている場合にどうするかはケースバイケースです。基本は、登記に必要な書類が全て揃っていないということで決済を中止するのが司法書士の役目です。しかし、売主が本人に間違いなく、戸籍の附票の取得に時間を要するだけという状況であれば、とりあえずその日に登記申請してしまって戸籍の附票が取得でき次第後から追加提出するという司法書士もいると思います。当然ながら、それに伴うリスクは司法書士が負うことになります。