所有権移転登記に代えての建物滅失登記

土地・建物の売買において、建物はもう古いので取り壊す予定であるとき、売買契約書には建物も売買対象物件として記載されているが「建物については所有権移転登記に代えて滅失登記をする」という条項が入っていることがよくあります。決済の場では、土地家屋調査士への建物滅失登記の委任状に売主が押印し、買主に渡します。

※建物滅失登記は司法書士ではなく土地家屋調査士の仕事です。決済に土地家屋調査士は出席しません。取り壊した後に買主がその委任状を土地家屋調査士に渡して建物滅失登記を依頼します。(形の上では売主から土地家屋調査士に依頼することになります。)

実際よく行われていることなのですが、これっていいのでしょうか?売買契約書に条項として記載されているからいいじゃないか、という気もします。ですが、不動産登記は実態に即して入れなければならないという大原則があります。不実の登記を入れた場合は罰則規定もあります。不動産の権利登記を入れるか入れないかは任意ですが、入れる以上は実態に即していなければなりません。売買対象物件として所有権が移転している以上、本来は所有権移転登記を入れてから滅失登記をすべきです。

法務局への登記申請にあたっては売買契約書を提出するわけではなく、土地の売買があったことを証する「登記原因証明情報」という書類を別途作って提出します。法務局は提出された書類のみをチェックするので建物の売買があったことは知る由もありません。要するにバレてないだけなのです。

以前、成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を家庭裁判所の許可を得て売却するケースがありました。この件も建物は取り壊す予定で、例によって売買契約書は移転登記に代えて滅失登記をするとなっていました。ところが、家庭裁判所の許可書には「土地・建物を売却すること」を許可する記載はあっても「取り壊すこと」を許可する記載はありません。家庭裁判所の許可書は登記申請における提出書類です。建物の移転登記をせず滅失登記をすることがバレるかもしれません(バレなきゃいいって話でもないのですが)。結局、この件は売買契約書を修正してもらった上で、建物も所有権移転登記を行い、取り壊した後に買主から土地家屋調査士へ滅失登記を依頼する、という本来の正しい流れにしました。